正露丸が「身体に悪い」と言われる所以
「正露丸は危険!」「正露丸は身体に毒!」なんて噂を耳にします。「実際のところ、どうなんだ?」と言う話です。
実家に帰ったときに「正露丸」がカラダに悪いのか?について、話題に挙がったので調べてみました。
正露丸(征露丸)のルーツ
正露丸は、かつては「征露丸」と呼ばれ、これは日露戦争に行く兵隊に持たせたクレオソート丸という薬の俗称であり、ロシア(露)を征服するという意味が込められていました。
第二次世界大戦終結後に「征」の字を使うことは好ましくないとされ、その名が「正露丸」と改められました。正露丸と言えば、大幸薬品が出している「ラッパのマークの正露丸」を一番に思い浮かべる人が多いかと思います。
しかし実は「正露丸」は大幸薬品以外にも実に色々な製薬会社が世に出しています。
過去に大幸薬品は「正露丸」の名称の独占的使用権を主張し商標登録を行いました。
しかしながら、既に多くの会社が「正露丸」という名称でこの薬を販売していたことから、差し止め訴訟が起こり、最高裁判決において普通名称化とする判決が下りました。「正露丸」の商標権は現在も大幸薬品が保有しつつも、どの会社が「正露丸」を商品名として使用しても権利侵害にはあたらないようになりました。(1974年と2008年の二度にわたり最高裁で確定しています。)
クレオソートについての誤解
正露丸の危険だという風潮が世に蔓延ったのは、1999年にベストセラーとなった「買ってはいけない」という本に、取り上げられた事がきっかけです。
本書では、正露丸の主成分として記載されている「クレオソート」が持つ毒性について指摘した上で、「木材の防腐剤に使われる成分を医薬品に用いるのか!」と、大幸薬品を名指しで、正露丸について批判しています。
大幸薬品が、現在販売している正露丸の種類には、いわゆる正露丸の形をした黒い粒の「正露丸」の他に、その特有のにおいを除去し飲みやすい白い錠剤にした「セイロガン糖衣A」がありますが、多少の成分の違いはあれど、どちらも主成分は、このクレオソートとなります。
しかしながら、このクレオソート批判には大きな欠落がありました。
実はクレオソートには、以下の2種類が存在します。
- 石炭から作られる工業用クレオソート油
- ブナの木などから抽出する(日局)木クレオソート
木材の防腐剤等に使われる危険度の高いクレオソートは、前者の石炭クレオソートなのですが、正露丸で使われているクレオソートは後者の(日局)木クレオソートの方であり、「買ってはいけない!」は、この2つを混同して批判していたのです。この批判に対して大幸薬品は、正露丸で使っている植物性の(日局)木クレオソートは、工業用の石炭クレオソートとは根本的に違う事であることを示し、正露丸の安全性を主張しています。
よって、世に出まわっている正露丸危険説は、クレオソートの混同が招いた風評被害と位置付けて良いかと思います。ちなみに、このクレオソート論争がきっかけとなり、正露丸の成分は「(日局)木クレオソート」と表記が改められました。
では、木クレオソートは安全か?
木クレオソートについても調べてみました。主成分は以下の通り。22化合物からなり、以下の6成分が8割を占めます。
- グアイアコール(グアヤコール)
- クレオソール(creosol、4-メチルグアヤコール)
- フェノール
- p-クレゾール(cresol)
- 4-エチルグアヤコール
- o-クレゾール
すると、いくつか気になる点が。
グアイアコールは歯医者で虫歯の治療の際に、麻酔や消毒に使われていた経緯があるそうですが、毒性があるため、現在ではあまり使われなくなっているそうです。また、フェノールについても、毒性および腐食性があり、皮膚に触れると薬傷をひきおこすため、毒物及び劇物取締法によって劇物に指定されているという経緯があります。
上記から判断するに、石炭クレオソート程の危険は無いにせよ、木クレオソートが毒性を持つ成分を含む事は、間違い無い事が分かりました。但し、フェノールについては、大幸薬品の木クレオソートの誤解ページにて「経口投与した場合は、発がん性がない」「毒性発現量には達しない微量」等の記載があります。
木クレオソートには「殺菌作用」があり、多くの薬理学の書物において、木クレオソートは殺菌作用による下痢止め薬に分類されているそうです。この殺菌作用がお腹の中で働き、大腸菌等の悪玉菌を退治して腸内環境を整えていると仮定すると、正露丸を飲むことで、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌にも悪影響を与える可能性が危惧されます。
しかしながら実際には、腸内で殺菌作用が働く事は無いという解説が大幸薬品のページにありました。
正露丸に書かれている用法・容量を守って服用した場合、木クレオソートは胃から血中に吸収され、腸内に到達するのはごく微量であり、お腹の菌を殺す事は無いと解説されています。木クレオソートは、悪玉菌であれ善玉菌であれ、お腹の菌を殺すことなく、あくまで「腸の運動と機能を調節して腸のトラブルを改善する」との事です。
但し、正露丸を大量に摂取したために、腸管が壊死したという事例もあるので、用法・容量を守らなかった場合はこの限りではありません。(以下のページでは、大幸薬品・品質保証部の方が正露丸の安全性についてインタビューに回答していますが、質問項目の1つに上記の記述があります。)
とは言え、正露丸も数ある薬の中の1つであり、薬には副作用は付き物なので、用法・容量を守らず大量に摂取したケースを引き合いに出すのは適当では無いかもしれません。
結論としては、用法・容量を守って服用すれば、すぐに身体に害を及ぼすような影響は無く「気にする」レベルの話では無いと思いました。私的には、正露丸の整腸作用は即効性があると感じているので、直ちにお腹の調子を整えたい時は、正露丸は有効な選択肢の1つに成り得るかと思います。
とは言っても、常用は危険?
用法・容量を守れば問題は無いとは言いつつも、毒性を含む成分を摂取しているという事実は否定できません。
あくまで私的な見解ですが「ちょっとお腹の調子が悪いから、正露丸でも飲むか」といった、正露丸に頼り切りとなるような服用の仕方は、身体にとって、あまりよろしくないのでは?と思いました。薬全般に言えることかもしれませんが。
それならば、善玉菌であるビオフェルミンを含む「新ビオフェルミンS錠」を服用した方が身体に優しいかと思います。
長くなりましたが、本記事の結論としては「まずは善玉菌で腸内改善を考え、正露丸はリーサルウェポン的な立ち位置で緊急事態にだけ服用する」です。
この記事が、読んだ方の腸内環境改善に少しでも役立てれば幸いです。